すぐれた芸術とは?

ーー私が心惹かれる芸術に共通することがあるとすれば、それは、ペシミスティックな視点を根元として、その中で一筋の光を探している、という様なことではないかと思うのです。私が信じられることとはそれだけなのです。それは、深い井戸の奥底の暗闇のなかに、太陽が真上を通るほんの少しの間だけ射し込む光のようなものです。我々の住むこの世界は、ろくでもないものです。人生の大部分は闇です。まちがいなく。
ーーふむ。
ーー勘違いしてほしくないのですが、私は私の個人的な不幸話のようなものを嘆こうとしているのではありません。私はわりあい楽天的な性分ですし、相対的に考えて恵まれた環境の中で、総合的に見ればささやかに幸せに生きてきましたと思います。しかし、それでも、この世界は闇なのです。それは変わることのない事実であり、私とは関係無く、すでにそこに横たわっているという類のことなのです。
ーーおっしゃりたいことを、なんとなくは、わかる気がします。
ーー我々は永遠に続くとも思える暗闇の中にいます。しかし、これもまた同じく変わらない事実として、その暗闇の中には、必ず、光が降り注ぐ瞬間が存在するのです。それは数十年という時の中で数十秒かそこらかもしれません。だが、その瞬間は確実にあるのです。それが、私の考える我々の人生のすべてです。私が心動かされる芸術はすべて、この永遠の暗闇と瞬間の光を表現したものです。漆黒の闇を多く描いたものも、またたく光にフォーカスしたものもありますが、それは、切り取り方と視点が少し違うだけなのです。ですから、あるものは悲劇であり、あるものは喜劇として表現さているのです。我々は吐き気のする泥のなかで、ほとんど絶望に打ちひしがれて、それでも踊り続けます。それは瞬く光を知っているからです。私が信じられることとは大体そのようなことです。
ーーロックンロールがこの50年以上証明しようとしてきたことですね。
ーーその通り。そして、例えば、ドストエフスキーフィッツジェラルドが書いたこと、宮崎駿が表現しようとしたことだと思います。