静かで平和で孤独な日曜日。

ーーずるずる(鼻水)
ーーずっと自分の手の届く範囲の人だけを幸せにできるようにがんばろうと思ってたんだ。僕の力ではアフリカで餓死する子供をどうする事もできないからね。なんとか手に負えるのは家族とほんの数人の友達のことを考えるくらいだなと。だからテレビのニュースも新聞もほとんど見ないで、そいうものは無いものとしてやってきたんだ。見ても大概、気が滅入るだけだしさ。だって世界中の人が自分の手の届く範囲を幸せにしようとすれば世界は平和なはずだろ。それで、僕としては自分のその「手の届く範囲」を少しづつ広げられるようがんばろうというわけ。それでずっと上手くやってきたつもりだったんだ。二十歳になったころにはその範囲の人数は少し増えてきて十人くらいにはなった。僕の力はもちろん小さいからそのくらいで限界だななんて思ってた。もうすこし歳をとったらもう少し増すこともできるだろうなんてね。
ーーへっくしゅ!
ーーでもそんな手の届く範囲なんてまったく幻想だったんだ。僕は最も大切な親友ひとり助けることも出来なかった。僕は全く無力で彼に対してアドバイスすら思いつかなかった。解決策や将来へのプランが浮かぶならすでに彼が実行しているだろうしね。そして、時がたてばたつほど状況は悪くなる一方だ。例えば僕が大金持ちになって彼に金を上げたってもちろん何の解決にもならない。本質的な意味で彼を救うには日本社会全体をなんとかしないといけないし、それはすなわち世界をなんとかしなくちゃならないことになる。
ーーぐしゅぐしゅ。
ーー結局、手の届く範囲を幸せにしようなんて全く奢りだったんだ。謙虚に小さな範囲に絞ってたつもりだったなんてお笑いだよ。きっと家族に対してですら時に人は無力になる。人をひとり幸せにするなんてことは大それたことだったんだ。それを実感したよ。
ーーじゅるじゅる。
ーーそれで僕は少し考え方を変えたんだ。世界を少しでも良くなる方向に押すのを手伝おうってね。僕なりのやり方で。ある意味では少し何かをあきらめたのかもしれない。でも、そういう風に考えたらすごく楽になったんだ。もう人を手の届く範囲で"区切る"必要が無くなったからね。きっと僕はもともと人間が好きなタチなんだよ。民衆はいつでも愚民で大衆意見の殆どには吐き気がするけど、その中のひとりひとりは好きでしかたないんだ。外の木に繁ってる葉っぱひとつひとつくらいにね。そういう性質なんだよ。これが僕が世界に「貢献」しようと思う理由。はい、ティッシュ
ーーありがとう。ぐじゅぐじゅ。
ーー手始めにおまえのために世界中の杉の木を切り倒そうか。
ーーありがとう。
ーー…もちろんジョークだよ。
ーー知ってますよ。